多くの企業が、自社のシステムをオンプレミスサーバーからパブリッククラウドに移行しています。パブリッククラウドを利用している企業は、業種や規模を問いません。政府情報システムについてもクラウド・バイ・デフォルトが原則となり、企業での利用も広がっています。なぜパブリッククラウドが選ばれるのか、その特徴やメリットをご紹介します。
パブリッククラウドの特徴
まずパブリッククラウドとは何か、プライベートクラウドやハイブリッドクラウドとの違いについてもご紹介します。
パブリッククラウドとは何か
パブリッククラウドは、多くのユーザーでコンピューティングリソースを共有して利用するクラウドサービスです。ユーザーが個人か法人かは問いません。通常クラウドと言えばパブリッククラウドのことを指し、多くのサービスがパブリッククラウド上で提供されています。
パブリッククラウドでは、必要なときに必要な分だけ使うことができます。リソースをユーザーが用意する必要はないので、コストを抑えることが可能です。ただし、リソースを共有しているのでカスタマイズの自由度は低くなります。
一方、プライベートクラウドは、インターネット上に用意されたクローズドなネットワーク空間です。セキュリティ上のリスクから機密性の高いデータを守る必要があるケースなどで利用されており、ユーザーからは通常のパブリッククラウドと同じように使うことができます。
またハイブリッドクラウドとは、プライベードクラウドとパブリッククラウドとを組み合わせて運用しているネットワークです。個人情報や機密情報はプライベートクラウドで運用し、ビッグデータや大量の処理、一時的な処理はパブリッククラウドで処理するなど、弾力的に運用することで、双方のメリットを活かし、デメリットを補うことができます。
パブリッククラウドの定義
パブリッククラウドには、明確な定義があります。NIST(National Institute of Standards and Technology:アメリカ国立標準技術研究所)は、パブリッククラウドは次の5つの特徴(Five Essential Characteristics)を備えていると定義しています。
- オンデマンド・セルフサービス(On-demand self-service)
クラウドサービス事業者を介さずに、ユーザーが自分でプログラムを作成してサーバー上で実行し、リソースを使用することができる。 - 幅広いネットワークアクセス(Broad network access)
作成したプログラムはインターネット上を介してどこからでも利用可能で、さまざまな端末から利用できる。 - リソースの共有(Resource pooling)
クラウドサービス事業者のリソース(コンピューティング、ストレージ、メモリ、回線など)は多くのユーザーで共有して利用する。インターネットを介して利用するので、物理的な場所に制約されない。 - スピーディな拡張性(Rapid elasticity)
クラウドサービス上のコンピューティング能力は、使いたいときに使いたい分だけ伸縮自在に利用できる。 - サービスが計測可能であること(Measured Service)
クラウドサービス側で、ユーザーの利用するリソースの種類(ストレージ、処理能力、帯域、実利用中のユーザーアカウント数)や数を計測し、最適化できる。
(参考:NIST によるクラウドコンピューティングの定義 Peter Mell,Timothy Grance)
パブリッククラウド導入のメリット
導入にあたってはオンプレミスと比較されることの多いパブリッククラウドですが、導入することでどのようなメリットがあるでしょうか。
導入コストが低く、運用コストは使った分だけ
パブリッククラウドでは、データセンター、サーバー、回線などのインフラはサービスを提供する事業者が用意するので、ユーザーが用意する必要がありません。その分、導入コストを抑えることができます。インフラを用意しないので、コストは固定費ではなく変動費として計上され、資産管理の必要もありません。
運用コストは、ほとんどの事業者で初期費用は不要かごく少なく、利用料金は従量制です。サーバーは必要な分だけ利用できるので、コストは最適化されています。必要最小限のシステムから利用を始め、少しずつ拡大していくことで、適切な容量で使うことができます。
物理的なインフラの管理や運用が不要となるため、インフラ運用の作業工数を削減できることもポイントです。
開発スピードの向上
サーバーや回線などのインフラを自社で用意する必要がないので、設計からサービス提供までの期間を大きく短縮できます。サーバーの容量変更なども、Web上の管理画面から実行できるので、すぐに変更可能です。
どこからでもサービスを利用できる
パブリッククラウドはインターネットにつながる環境ならどこからでも利用できます。外出先や移動中でも場所や時間を選ばず処理できるので、業務効率化が可能です。データはサーバーで管理しているので、複数の場所やデバイスから利用しても、データを自動的に同期・共有できます。
柔軟な拡張性
パブリッククラウドは、利用する容量を変化させることでアクセスの増減に柔軟に対応できます。一時的なアクセス増加のために無駄なサーバーを用意する必要はありません。
カスタマイズによって既存のシステムと連携したり、使用の有無を変更したりすることも可能です。そのため、気軽に新しいサービスをリリースすることや、追加・廃止することができます。
セキュリティ環境
パブリッククラウドは、サービス提供事業者がパブリッククラウドのインフラ部分のセキュリティを担保しています。それによって、インフラ部分ではプライベートネットワークに劣らないセキュリティ環境を実現可能です。
ただしユーザーが利用している領域のセキュリティはユーザーが担当することが多いので、注意が必要です。
運用負荷の軽減
パブリッククラウドなら、オンプレミスのようにバックアップ用のサーバーや環境を準備する手間なく、簡単にバックアップ環境を用意できます。ディザスタリカバリを考慮した地理的・物理的に分離されたシステムの構築もオンプレミスよりも簡単にできます。
保守・運用管理はサービス提供事業者が担当するので、ユーザーがメンテナンスを行う必要はありません。
オンプレミスからパブリッククラウドへ移行する際の注意点
既存のシステムやサーバーをオンプレミスサーバーからパブリッククラウドに切り替えるときには、いくつかの注意が必要です。
要件定義をしっかり行うこと
自社のシステムに必要な要件とパブリッククラウドの仕様を比較して、自社のニーズに近いものを選びましょう。自社のシステムに合わないものを選ぶと、多くのカスタマイズが必要になり、結果的にコストや納期がかさんでしまいます。
社内システムとの連携など必要なシステムの要件、セキュリティ、運用条件など、必要な条件を明確にしておくことが重要です。
パブリッククラウド事業者を厳しく選ぶ
パブリッククラウドのセキュリティや安定性は、サービスを提供している事業者により異なります。事業者は、次のような条件を満たすところを選びましょう。
- セキュリティに関する第三者認証を取得していること
- 日本の法律に準拠しているか、管轄裁判所が日本国内であるか(特に海外の業者では重要)
- 災害時や障害発生時に必要なバックアップ体制が十分で、安定して稼働していること
ユーザー側のセキュリティ意識を改善
パブリッククラウドを利用するときは、ユーザー側にも意識や知識が必要です。公衆Wi-Fiを利用したり、パスワードの管理が甘かったりすると、そこがセキュリティホールになってしまいます。パスワードの管理や二段階認証の導入、パブリッククラウドとプライベートクラウドとの使い分けなど、ユーザーのセキュリティ意識にも教育が必要です。
パブリッククラウドは中小企業にこそ向いている
パブリッククラウドは大企業やITに詳しい企業が使う、難しいものというイメージがあるかもしれません。しかし、パブリッククラウドの特徴やメリットを考えると、インフラ運用の負担が業務を圧迫する可能性のある中小企業にこそ向いています。自社だけでパブリッククラウドを導入するのが難しければ、サポートしてくれる代行業者も多いです。自社に合ったシステム構成を作れるように、まずは自社の業務内容やワークフローを見直すことから始めましょう。
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