故障のメンテナンスが二度手間になっていた
医療器具の販売・メンテナンスを行うM社は、医療器具の洗浄を行う機器のメンテナンスに時間と手間がかかり、人件費が増えメンテナンス費用の利益率が悪化する課題を抱えていました。メンテナンスの流れは、故障時に機器からの異常アラートを受けとると、フィールドエンジニアが利用施設に訪問して故障の原因を特定、修理部品を調達し、後日に再度訪問して修理を行っていました。2度の訪問により想定よりもメンテナンスコストがかかってしまうことが問題となっていました。そこで、機器が取得しているセンサーデータから、故障予測や事前のメンテナンスで故障を防ぐことができないかと考え、M社のシステム管理担当者は、データサイエンティストに相談しました。
機械学習で故障予兆を検知
データサイエンティストに相談をしたところ、まずは今あるデータを分析して正常値のデータと異常値のデータに分類することから始めました。センサーデータは40種類あり、稼働している全台数のうち一定数に異常レコードがある機器を対象として分析を行いました。IoTセンサーで取得するデータは排水や酸素のデータなど数種類に分類ができます。予測可能な異常に関して、どれくらい前に異常発生の予兆をつかむことが可能かを分析しました。
残念ながら原理的に予測ができない異常もありました。例えばモーターの異常は電力消費量と回転数の関係性の変化から発生するのですが、電力消費量データは取得できていなかったのです。今後は取得することにしても、傾向を特定するためには年単位のデータ蓄積が必要になるため、今回は断念しました。
最も有用だったのは排水に関する異常は予測可能であるという示唆が得られたことです。加えて、排水異常のパターンは2種類に分類できました。一つ目は、段階的に排水時間が増えて異常値となるケースです。これは予兆の検知が可能であり、排水フィルタの事前交換によって防ぐことができます。
二つ目は、突発的に異常値となるケースです。ユーザーに協力していただき、現地で排水ホース等の状況を確認の上で再起動すると異常は解消されます。ただ、突発的な事象なので事前の予測は困難です。
排水以外の酸素関連など他センサーの異常については、突発的に発生するエラーのみで、事前予測は不可能であることがわかりました。また、装置別に故障の傾向が異なることもわかりました。装置によって発生するエラーが大きく偏っており、マニュアルの作成、オペレーションの改善により改善できる対応が多くなることも結果として得られました。
さらに機械学習で故障予兆のモデルを学習させた学習器をつくり、三段階のリスクに応じた段階的な予測を行う体制を作りました。この学習器を用いて3ヶ月間、故障予兆の検知を行ったところ、排水異常について、人為的な操作ミスのため仕方のないような異常以外は、1週間前に予兆として80%の精度で予測可能となりました。
エラーを事前に予測し、故障を防ぐ体制を整備
この学習器を用いることでエラーの発生が予測可能となったため、事前に部品交換を行うよう運用が変更されました。その結果、原因特定前と後に2回訪問が必要だった従来のメンテナンスに対して、1回の訪問で済むようになったため、メンテナンスコストを削減することができました。また、エラーの発生頻度・内容をもとに、ユーザーに操作上の改善を指導することで、エラーの発生を抑制することができました。
2つの対策により、M社のメンテナンスコストは大幅に削減され、利益率も改善されました。また1顧客あたりの訪問頻度を削減できたため、突発的な故障への対応を優先できるようになり、顧客対応のスピードも向上し顧客の満足度も高くなりました。
導入後の効果
- 故障予兆の検知によってメンテナンスがスムーズになり、人員と時間のコストの削減につながった
- 通常のメンテナンスの時間を削減することで、突発的な故障への顧客対応スピードを上げることができた
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